五島列島のほぼ中央、人口4600余りの奈留島。
入り江の岸壁につながれた巻き網漁船が十数隻、柔らかな日差しを浴びてゆったりと波間に揺れている。
そこから椿の花が咲く緩い坂道を20分ほど上がり詰めたところに、長崎県立奈留高がある。
校門を入ると、高さ2.5メートル、高さ2メートルの御影石製の碑が建っていて、こんな歌詞が刻まれている。
手紙を入れたガラスびんを持って
遠いところへ行った友達に
潮騒の音がもう一度届くように
今 海に流そう
そう、あのユーミン、松任谷由実さんの「瞳を閉じて」だ。
デビュー間もない22年前、ひとりの女生徒の手紙をきっかけにプレゼントされた。
碑の除幕式は、88年8月14日に行われた。
島を離れた卒業生も久しぶりに集まった。
ブラスバンドの演奏に迎えられたユーミンは、碑を見て、教室から海を眺めて、
「あ、私の字。えっ、詞と同じ風景じゃないの」とつぶやき大粒の涙をこぼした。
「あの時のユーミンの感激ぶり、忘れません。
今も思い出すたび、ふるさとっていいなって気持ちになるんです」
今も思い出すたび、ふるさとっていいなって気持ちになるんです」
霧が晴れたら 小高い丘に立とう
名もない島が見えるかもしれない
小さな子供に尋ねられたら
海の碧さをもう一度伝えるために
今 瞳を閉じて~
ユーミンは、
「手紙からイメージを膨らませ、遠くに行った友達へメッセージを送るつもりで作ったんです。
時々、奈留島の風景がフラッシュバックします。
あんなにきれいなふるさとがあるのは幸せ。
都会に出ても、『あの美しさを残したい』という思いを大切にしてほしいですね」